2010/06/08

二宮秀樹クンに会えたらいいな



 1966年7月4日から翌年1967年9月25日まで「マグマ大使」全52話が放送された。驚くべきことに「ウルトラマン」に先立つこと僅か13日、 ヒーロー作品としては日本初の完全カラー作品であった。有名なテーマ曲を作曲したのは、いまは亡き山本直純さんだ。さて、どんなお話かというと、地球の創 造主であるアースが、人類を守るためにロケット人間マグマ大使、モル、ガムを生み出し、マモル少年にマグマ大使を呼ぶ笛を託し、ゴアの魔の手から地球を守 るために、ともに戦う、というお話だ。マンガを読み疲れた後は、テレビのチャンネル(当時は巨大なダイヤル式だ)を寝るまで回し続けていた俺は、当然なが ら「マグマ大使」にはまった。ただし少し変わった“はまり方”をしてしまったようだ。

 俺は、ガム役で出演していた二宮秀樹クンに、尋常ではないはまり方をしてしまった。興味を持ったものには、とことん耽溺した俺だが、人間にだけ はどうしても興味が持てなかった、というよりも無関心であった。そんな俺が、画面の中の二宮秀樹クンの一挙一動から目が離せなくなってしまった。
「あたりきだい!」と明るい笑顔で、画面せましと走り回る二宮秀樹クン。
“可憐”という言葉を使うのがとっても恥ずかしい俺だけれど、可憐というのはなにも少女だけの専売特許ではない。二宮秀樹クンは、それはそれは可憐な少年だった。鈴のような声で
「しんちゃん、遊ぼう! なにグレてんだよ。困ったなぁ……。動けないんだったら、ボクの手につかまりなよ! さぁ出発しよっ!」
 なんて涼し気な目で、肩をポンッと叩きながら言われたら突っ伏して号泣してしまうだろう。毎週、お話そっちのけで二宮秀樹クンの姿を追う俺。俺は自分のチンコが勃起しているのにはじめて気がついた。たんなる配水管だと思っていたのに、
「なんなんだよ?これは……」
 と思いながらも、せつなくも息苦しい、なんともいえない感情を忘れることが出来ない。

 テレビで「マグマ大使」を鑑賞しているだけでは飽き足らない俺は、二人の弟を相手に、“マグマ大使ごっご”に興じるようになった。当然、マモル 少年が俺。どちらかの弟がガム。残った方の弟がゴアを含む全ての悪モンだ。二宮秀樹クンとは似ても似つかない弟を二宮秀樹クンだと思いながら、遊びに興じ ている時の感覚は、大事なものが音を立てて崩れていくような、なんともアンビバレンツな感覚ではあった。あまりにも弟が似てないので、二宮秀樹クンの顔を 描いた、酷いお面(画用紙です)を被せたこともあった。たかが子供のやったこと、遊びとはいえ、我を忘れ、感極まった俺は、弟を力まかせに抱き締めなが ら、
「さぁ! 地球を守ろう!」
「ぎゃあぁぁぁぁ!! 兄ちゃんやめろよな!よせよ~!」
 というシーンを何度も懲りずにやってしまった。ここまでやれば立派な外道だろう。抱き締めるなんて行為が、なぜ出来たのか不思議だ。耽読していたマンガの影響であることは明白だが、心と身体がリンクしているわけではないので、なんともいえない気持ちに襲われた。
寂寥感というやつだ。

「マグマ大使」の放送が終了した。二宮秀樹クンにもう会えない……俺は深い絶望を味わった。弟達はホッとしただろう。見るに見かねたのかどうか分 からないが、オヤジが俺たちを映画に連れて行ってやろうか、と誘ってきた。本来なら楽しいお誘いだが、オヤジの誘いが何を意味するのか熟知している俺たち の気持ちは、ちょっと複雑だ。映画館の前で横一列に並んだ俺たちは、
「よおし!全速力で入口を突破するんだぞ、わかったな。落ち合う場所はいつもの自動販売機の前だ。それっ!」
 俺たちはたくさんの映画を見た。ただしお金は払ったことがないのだ。
「こらっ待て! おい、あんたの子供だろ? なんてことをするんだ!」
「なんだよ! 言いがかりつけんじゃないよ。あんな子供、知らねぇよ!」
 映画館の人間とオヤジのこんな罵り合いは、何度となく耳にした。段取りが巧くいったとしても、俺の気持ちはとても暗かった。暗い気持ちのまま見 た映画が「大魔神逆襲」(大映)だった。なんともいえない重厚な音楽が印象的な映画だった。作曲したのがつい先日亡くなった伊福部昭氏だと分かったのは、 かなり後のことだ。そして驚くべきことに、なんと二宮秀樹クンが出演しているではないか。慣れ親しんだガムのコスチュームではなく、全身時代劇調ではあっ たが、二宮秀樹クンに間違いはなかった。
あぁ、やっと会えた……。
 俺は放心したまま映画を見ていたが、わけもなく泣けてきた。怒られたり、虐められたりしなくても、泣くことがあるのをはじめて知った。

1 件のコメント:

  1. 今はその二宮秀樹さんも58歳で孫がいます。娘二人も超美人ですよ。
    チョット動きが郷ひろみ風なおじさまになりました。

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